苺
苺に練乳をかけると妻におこられた。かけるのがダメなんじゃなくて、とフォークをくわえたまま、かけすぎなのよ、台無し、と言われた。
むかし、苺はそれほど甘くなかった。私が口にしてきた苺は、今の苺とはちがうのだった。品質が改良され、糖度の高い果物がいつしか世の中に出回って、練乳にもはや出る幕はない。練乳だってそうだ。いつのまにかチューブになっている。あのころは缶入りで、頭に穴を二つ開けて一方の穴から垂らすのだ。白い筋がたらたらと流れ出て、糸を引く様子を途切れるまでじっと見入った。思いのほかかかってしまうのがよかった。流れのままでいいのだった。チューブってなんだ。
牛乳に浸して、スプーンの腹で押し潰しながら砂糖をまぶして食べた。あのころの苺が好きだ。
グレープフルーツは王様だった。横半分に切ってまあるい果肉の上にまんべんなくフロストシュガーをかけて、先割れスプーンでほじって食べた。あのころのグレープフルーツが好きだ。ルビーが登場したときはびっくりした。ルビーってなんだ、ピンクってなんだ。
赤に白、黄色に白、ピンクに白。その色に目を奪われた。買ったばかりの食器棚はガラス戸で、食卓に並んで座る私と弟が映っていた。そういうことがおいしかった。
お母さんに電話した? 妻が言った。苺のヘタを取りながら、草冠取ると母だね、と言った。
この果物鉢は
有田や伊万里、いわゆる磁器ものは、佐賀に本拠を置きながら熊本の天草陶石に依るところが大きい。磁器土として扱いやすいのが理由である。
この果物鉢をこしらえる伊万里の窯元は、あえて地場の泉山陶石を使う。天草に比べて粘質に乏しく成形には手こずる。鉄分が多いために小さな黒子も残る。釉掛けはざっくり、いわゆる白磁とは趣が異なり素朴である。当の窯元は「古拙」と謙遜するが、磁器はそもそも佐賀が出自、その手練にまちがいはない。
白すぎない白、初心の色に土地柄がある。果物鉢と名乗るが、盛ると映える銘々皿にもよい。
商品名 果物鉢
素材 泉山陶石、白川釉石、土灰釉
製造 文祥窯(佐賀県伊万里市)
デザイン 猿山修
制作 東屋
寸法 径159 × 高38mm
価格 4,950円
※ 入荷未定
<< 戻る