霧が晴れるみたいに
ずいぶんとむかしのこと、『ミスト』というゲームにはまったことがある。女の子の家にころがりこんで、そのままそこにいることがあたりまえになっていった。こうすれば二人はいつもいっしょにいられる、そのことをおたがいがわかっていた。だから二人っきりでじっと家にこもって、まるで「大丈夫」という鍵でもかけたつもりで、安心しきった二人はそこから外に出ることもなかった。あれは、なにか特別なものを見つける旅だった、たとえば野原だとか、森のなかだとか、坂道を上ったり下ったり、ただ歩きながら、手紙やメモのたぐいを見つけてゆく、それらを足がかりにして、ひたすら前に進むのだ、見知らぬ浜辺、見知らぬ丘、見知らぬ岬、岬には灯台があった、近づいてみた、そのなかの螺旋階段を上って、扉を開け、風を感じた、海を眺めた、さざ波がたっていた、昼間だった、昼間の灯台はなにも照らし出さないことを知り、いや、ただ遠くから灯台を見ただけなのかもしれないし、あれは灯台じゃなかったかもしれない、海なんてそもそもなかったかもしれない。夜な夜なそのゲームにかじりついていた。それから数日がすぎた。そしてそれはおわった。けれど、かんじんの「なにか特別なもの」がいったいなんだったのかはまったく思い出せずにいる。「ミストってミステリーの略語なんだね、だって i じゃないもの」後ろにいたはずのあの女の子の顔もぼんやりとする、振り返ってもうまく思い出せない、二人で歩いたわけじゃなかった、ゲームのなかはいつも一人だった。
「過去は霧みたいだ」
後ろにあったはずのものがいつのまにか回ってきたみたいにそこに漂っている。透かして、今を見ている、そうかもしれない。だからよりいっそう、目の前で起っていることが、現実のものだとわかってくる。不透明なのは、こころであって、それが人間である。その目はだけど、もともと澄んでいる。
「概念だけでものを語ろうとしてはならない。目の前にある実際のものやことがらをこの目で見ることからはじめる」
くもらせてはいけない。
そういえば、深いふかい霧の、まっ白い画面から、ゆっくりと霧が晴れてゆくと、そこはにびいろの埠頭で、四、五人の男女がばらばらに違う方向を向いて立っている、そんな映画のワンシーンがあったような気がするけれど、あれはもしかしたら、ゆっくりとゆっくりと霧がかかってゆき、そのうちに彼らはそのまっ白いなかに消えていって、見えなくなってしまったんじゃなかったか。 どっちだったか忘れてしまっている。そうだ、あるひとがこんなことを言っていた。歳をとっていくといろんなことを忘れていくね、だけど考えようによってはね、むかし見た映画も、むかし読んだ本も、そんなことなかったみたいに、はじめて出会うことになるんじゃないかしら、だとしたらそれはそれでたのしいよね。
あの女の子とそんなふうに出会うことなんてあるんだろうか。
あれは晩夏だった。二人でいちどだけ旅に出たことがあった。あれだけ二人でたしかめ合ったのだから、もう外出しても平気だわ、うまくやっていける、二人はそう踏んだのだ。シーズンオフのスキー場、風でリフトが揺れる下を二人で歩いて上った。どのくらい歩いたか、不意に目の前が、低い空だけになった。もう少し上った。すると平地に出た。そこにメリーゴーランドがあった。だれもいなかった。二人は足が止まった。二人は顔を見合わせることもなくじっと動かないそれを見ていた。
はじめて出会えば、それは跡形もなく消える。
この微細霧吹き器は
形態と機能の間にはどれほどの余地があって、そのどこらへんに立ちつづけているのが好ましいのか、この微細霧吹き器を見るにつけ、ものをこしらえることはなんとも不思議だとおもう。テコの原理、ピストン運動、水の加速度、エトセトラ、エトセトラ。機能がデザインを呼びこんでいる。
この微細霧吹き器は、「微細な霧がワイドに拡がる」と謳う。その理由は、ノズルの構造にある。噴霧口のネジを回して覗くと、「虫」と呼ばれる小さな部品があって、そこに螺旋状の溝が施されている。それによって繊細な霧を放つことができるのだという。
グリップは持ち易く、レバーは前述どおり、テコとピストンの作用が相まってスムーズに駆動、噴射する。本体はステンレス、ノズルは真鍮でこしらえてあるので、さびにくく、耐久性がある。これぞ定番。観葉植物の水やり、パンやお菓子づくり、はたまたアイロンがけなど、ぜひ一台、お手許に。
商品名 微細霧吹き器
素材 ステンレス、真鍮
制作 新考社(埼玉県川口市)
寸法 幅88 × 径62 × 高155mm
容量 200ml
価格 5,060円
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