東青山


〇 オリーブのまな板

2011. 5. 28  [日用品]
 

オリーブのまな板

 大切にすることの先にあるもの


 正直言ってさいしょは、「不様」だな、そう思った。年輪が歪んでフシもあるし、形もカバンみたいだ。
「それは、オリィーヴの木で作られています」女のひとが言った。すると「オリィーヴ」だけとつぜん私のなかにぽちゃん、と落ちてきたのだった。おりぃーゔおりぃーゔ、と、波紋が広がって、それから「不様」はあれよあれよと「親密」という形容詞にとってかわるのだった。オリィーヴ。女のひとのまねをして言ってみたくなった。
「オリィーヴかあ。へえ」
「不格好ですが、ものはいいんです」
 見入ってしまったのは女のひとの「オリィーヴ。」に反応したにすぎない。なのに「オリィーヴかあ。いいかもなあ」とまで口に出す始末だった。
 イタリアのトスカーナで作られた、オリーブウッドのチョッピングボードのことである。たくさんの実を生み、その役目を全うしたのちいよいよ枯れてしまった木を使ってこしらえた。だけど、板材を切り出せるぐらいの太さともなれば、けっこうでかいのではないか。
「オリィーヴってそんなに大きくなるの?」
「はい、百年はかるく」
「へえ」
 考えてみれば、イタリアでどれだけオリーブが大切なものか、想像に難くない。いたりあといえばおりぃーゔ、おりぃーゔといえばいたりあだ。木の一本一本が政府に登録され、つまり「国」が管理する。実をつけつづける間はたとえ所有者であっても勝手に伐採もできない。と、まあ、オリーブがイタリアでどれだけ重要なものか、女のひとが教えてくれたのだけど。私の中で「オリーブ」といえは、細長くスレンダーなイメージしかなかったのだった。
 そういえばむかし、「重要文化財」に指定された古民家を取材して回ったことがある。たしかあれは、「重文」でありながら今も「住まい」としてちゃんと使われているところを見ていこう、そういった企画だった。そのうちの一軒、とあるワイン工場のそばに「藁葺きの家」があって、
「たとえ持ち主でも、無闇にタテツケひとつ直すこともできないのよね」
 と、「絵になる」と踏んでいた企画の身勝手な方針とは裏腹の、第一声を聞く羽目になった。
「エアコンつけるにもお伺い立てなきゃいけないんだから」
 がたがたっ、とすきま風の鳴る窓を、主は恨めしそうに振り返る。が、「しょーがないから、建てちゃったわよお。だってじぶんちなのに気を使うのもへんでしょ」と、主の視線を辿るとそこには新しい家が建っていた。
 ジューブン、と聞けば、それはたしかにジュー分すぎるぐらいジューヨーなカンジ、たたずまいである。時に従ってひとびとの生活の証しを「保存」というカタチで記憶にとどめておくことは、たしかにジューヨーなことなのである。しかし、当の主が望みもしないのに「管理」され、あげくの果てに、、、、なーんて側面をかいま見せられたとき、じぶんちなのに住まうための工夫もさせてもらえない、というのはなーんかヘンだぞ、そう感じたのも事実だった。でも、じゃあ内側だけなりふり構わず快適にして、外ヅラだけホゾン、なーんていうのも、どうもしっくりこないしなあ、、、。
 はて、なんでこんな話になったか。そうだ。「オリーブ」と「管理」とが、私の中でうまく結びつかなかったせいだった。私にとってのオリーブは、やっぱりスレンダーなカラダをくねらせながら、地中海の陽光を浴びて自由気ままに生きているのだった。私たちは、その実を勝手にもいでいるのだった。勝手にオリーブに役目をつけたのは私たちなのだった。私たちは、分けてもらう立場なのだった。だから大切にするのは当たり前のことなのだった。木は生きて、実を生み、枯れて選ばれしものは材となり、家にもなれば、それこそ「まな板」にだってなる。勝手に私たちが使わせてもらっているのだった。耐えて耐えて生き抜いた100年、それから材となってまた100年、使い込まれてまた100年、それがまた受け継がれてさらに100年。どうやって使っていくかは、「ひとの知恵」にかかっているのだった。
 私はいつのまにか、手に「オリーブの木」を携えていた。
「とりあえず、ながーく、おつきあいしてもらうために、コツをひとつだけ」女のひとが言った。「オリィーヴオイルで磨いてあげてください」
「へえ」
 大切にすることは、新しくすることより奥が深い。
 と、私は女のひとの口もとをながめながら、「オリィーヴ」を包んでくれているのをじっと待っていた。
 
 
 商品名 オリーブのまな板
 素材  オリーブウッド
 製造  イタリア(トスカーナ地方)
 寸法  およそ 長220mm × 幅140mm × 厚13mm
       ~ 長320mm × 幅220mm × 厚30mm
 重量  およそ 270g ~ 1300g
 価格  3,630円 ~ 15,620円
 ※ 寸法により、5つの価格を設けております。詳細は、お手数で
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